遺産分割のやり直しは、相続人の合意がある場合や、無効事由・取消事由がある場合に認められます。
なお、2023年4月からは改正民法が施行され、相続開始から10年が経過すると、原則として特別受益・寄与分は主張できなくなる点に注意が必要です。
遺産分割をやり直せる場合の例
遺産分割をやり直すことができるのは、相続人全員の合意がある場合のほか、遺産分割の手続きに法的な問題があった場合です。
具体的には、以下の例が挙げられます。
相続人全員の合意がある場合
相続人の全員が、すでに成立している遺産分割協議の一部を合意により解除し、改めて遺産分割協議をすることは可能と解されています(最高裁昭和53年2月17日判決)。
したがって、相続人全員の合意がある場合には、遺産分割をやり直すことが可能です。
一部の相続人が不参加だった場合
遺産分割は、必ず相続人全員が参加しておこなわなければなりません。
相続財産は相続人全員の共有であり(民法898条)、その処分には共有者である相続人全員の同意を要するためです(民法251条)。
したがって、一部の相続人が参加せずにおこなわれた遺産分割は無効であり、遺産分割のやり直しが必要となります。
なお、遺言書で包括受遺者※が指定されている場合において、包括受遺者が参加せずにおこなわれた遺産分割も無効です。
※包括受遺者
遺産を具体的に指定せず、割合のみを指定されて遺贈を受けた者
一部の相続人に意思能力がなかった場合
相続人が遺産分割について同意を与えるためには、意思能力※を有していなければなりません(民法3条の2)。
※意思能力
法律行為の結果を認識・判断できる精神能力。
遺産分割協議書の締結当時、意思能力を有しない相続人については、成年後見人を選任して遺産分割に参加させる必要があります。
意思能力を有しない相続人が自ら参加しておこなわれた遺産分割は、不参加の相続人がいた場合と同様に無効です。
未成年者の相続人について、特別代理人の選任を怠った場合
相続人が未成年者の場合、原則として法定代理人が代わりに遺産分割に参加します。
しかし、未成年者が相続人となる場合は、その法定代理人(親)も同じく相続人であるケースが多いです。
この場合は利益相反関係が生じるため、未成年者のために特別代理人を選任しなければなりません(民法826条1項)。
特別代理人を選任せず、法定代理人が未成年者に代わって同意を与えた遺産分割は無効です。
重要な錯誤があった場合
遺産分割の内容について重大な認識違い(錯誤)をしていた場合、相続人が遺産分割に同意する意思表示を取り消すことができます(民法95条1項)。
たとえば、当時は把握していなかった重要な遺産が後から見つかった場合には、遺産の内容について重要な錯誤があったものとして、遺産分割の取り消しが認められる可能性があります。
なお、動機部分について錯誤があった場合(例:価値が高いと思っていた不動産の価値が、実際には思ったよりも低かった)にも、錯誤取り消しが認められることがありますが、他の相続人に対してその動機を表示していたことが必要です(同条2項)。
騙されて遺産分割に同意した場合(詐欺)
他の相続人に騙されて遺産分割に同意した場合、詐欺に基づいて同意の意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
また、詐欺をおこなったのが相続人以外の第三者である場合にも、遺産分割の詐欺取り消しが認められることがあります。
ただし、相続人が詐欺の事実を知り、または知ることができたことが必要です(同条2項)。
なお、詐欺取り消しは善意無過失の第三者に対抗できません(同条3項)。
したがって、遺産分割された財産を転得した第三者が、詐欺の事実について善意無過失である場合には、当該財産の返還請求は認められません。
脅されて遺産分割に同意した場合(強迫)
他人に脅されて遺産分割に同意した場合、強迫に基づいて同意の意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
詐欺取り消しとは異なり、強迫をおこなったのが相続人以外の第三者であっても、強迫取り消しは特に要件の限定なく認められます。
ただし、強迫の事実について善意無過失の第三者に対しては、詐欺同様に取り消しを対抗できません。
相続人全員の合意がある場合
相続人の全員が、すでに成立している遺産分割協議の一部を合意により解除し、改めて遺産分割協議をすることは可能と解されています(最高裁昭和53年2月17日判決)。
したがって、相続人全員の合意がある場合には、遺産分割をやり直すことが可能です。
遺産分割をやり直す際の注意点
遺産分割をやり直す際には、税金について注意すべきポイントがあります。
合意による再分割の場合、贈与税・譲渡所得税が課税される
相続人全員の合意によって遺産分割をやり直す場合、税法上は相続ではなく、相続人間で新たに財産を移転したものと取り扱われます(相続税基本通達19の2-8)。
したがってこの場合、新たに遺産を取得する相続人においては贈与税が、遺産を手放す相続人においては譲渡所得税が課税される可能性があります。
特に遺産が高額に及ぶ場合、贈与税・譲渡所得税が高額になるケースが多いので要注意です。
無効・取り消しによる再分割の場合、相続税額の修正が発生することがある
遺産分割の無効または取り消しにより再分割の場合、やり直しに伴って贈与税・譲渡所得税が課されることはありません。
ただし、すでに相続税申告が済んでいる場合には、遺産分割のやり直しによって相続税額の修正が発生することがあります。
遺産分割のやり直しによって取得する遺産が減った相続人は、再分割が完了した日の翌日から起算して2か月以内に、税務署長に対して更正の請求をおこなうことができます(国税通則法23条2項)。
更正の請求が認められれば、当該相続人に課される相続税額は減ります。
その一方で、更正の請求によって相続税額が減った相続人がいる場合、相続する遺産が増えた相続人が納付すべき相続税額は増えます。
この場合、更正の請求の期限までに、相続税の修正申告または期限後申告をおこなわなければなりません。
修正申告または期限後申告を怠ると、延滞税や加算税が課されるので要注意です。
なお、更正の請求がおこなわれなかった場合には、それに伴う修正申告または期限後申告は必要ありません。
登録免許税が別途発生する
遺産分割のやり直しに伴って不動産を再移転する場合、法務局に登記申請をおこなう際、改めて登録免許税を納付する必要があります。
合意による再分割の場合も、無効・取り消しによる再分割の場合も、登録免許税の納付が必要となる点にご注意ください。
不動産取得税は発生しない
遺産分割をやり直す際には、登録免許税とは異なり、不動産取得税は課税されません。
相続による不動産の取得に対しては、不動産取得税が非課税とされています(地方税法73条の7第1号)。
遺産分割をやり直した場合についても、当該遺産分割による不動産の取得は、相続による取得として不動産取得税が非課税となります(最高裁昭和62年1月22日判決)。